直線上に配置

デジタル化がカメラマン業界にもたらす問題



 
 今、写真業界内では急速なデジタル化が進んでいます。「フィルムのほうがいい」という人ももちろんいますが、アマチュアと違って、コストを重視するプロ(芸術写真で食えない、いわゆる営業写真のプロ)の仕事の現場では、トータルの経費が大幅に削減できるデジタルは経営的に魅力があり、続々とデジタルに切り替えています。
 あの篠山紀信氏も「デジキシン」なるグラビアもやっていて、必要に応じて、デジタルとフィルムを使い分けているようです。

 デジタルは、「フィルム代がかからない」「現像代がかからない」「必要な時だけプリントすればよく、無駄なプリント代がかからない」「ポラロイドが不要になる」「その場で写真が見れる (モデルさんやクライアントさんに、撮影現場ですぐに見せることができるのは大きな利点。もちろん、カメラマン自身にとっても)」「失敗撮影にその場で気づくことができる」「現像事故がない」「保管整理が楽」「CDで納品できる」「容易に感度を変更できる」・・・・など、 いいことづくめの方式です。写真の階調表現などでは、まだまだフィルムのほうが有利ですが、その差は徐々に小さくなってきています。

 ただし、デジタル化にあたる「初期投資」はけっこうな金額がかかります。カメラはもちろんですが、レンズも事実上、フィルム時代のものは使えません。(望遠系は流用しやすいのですが、広角系が使いものになりません) また、ストロボもフィルム時代のものとは方式が違うため、同じニコンのストロボであっても以前のものは流用できません。カメラ用バッテリーもそれぞれ専用のものが必要です。結局、ほとんどの機材を新しいものに、全取替えしなければなりません。そんなわけで、今までニコンだけで仕事をしていた人が、「この機会にキャノンに変えようか」という人もいます。そして、画像処理をするための高性能のPCも当然必要ですし、ソフトも買わなくてはいません。

 こうやって、デジタル化を実現させて、仕事をしている会社は、最初の頃はデジタルの便利さ、ランニングコストの安さを喜びますが、仕事をいろいろたくさんこなしてくるうちに、さまざまなトラブルが発生して、「あれ?」と思うようになります。

 ここでは、筆者の知り合いが現在活躍している「結婚式スナップ撮影業者」を例に説明していきます。


デジタルでの撮影は意外と難しい
 「写るんです」という使い捨てカメラがあります。これ、実は、写真の露出を決める「シャッタースピード」と「レンズの絞り」が1段階しかなく、固定されています。(普通の一眼レフカメラでは、細かく設定できるようになっています) なぜ、このような簡単な構造でもきれいな写真が写せるかというと、フィルムの特性=寛容度によるものです。「明るすぎても、暗すぎても、プリントする際になんとかなってしまう」という特性をネガフィルムは持っています。(スライド用のリバーサルフィルムは違います)
 しかし、デジタルの場合、露出の調整がシビアです。ちょっと明るすぎると真っ白に飛んでしまいますし、暗いと真っ黒です。「画像ソフトであとから調節できるのでは?」と思われる方もいるでしょう。たしかに、多少のリカバリーはできます。しかし、暗いのをなんとか明るくすることはできますが、「白く飛んでしまった」写真は直せません。また、結婚式のスナップ撮影のように、大量の写真を撮影するケースでは、「後から1枚1枚修整するのは大変だから、なるべく撮影時にベストの写真を撮ってくれ」と要求されます。しかし、ちょっと露出を間違えるだけで写真は台無しになってしまいます。以前のネガフィルムを使用した写真の場合、多少露出がいい加減でも、プリント時に簡単にリカバリーできたのですが、デジタルはそうはいきません。つまり、撮影するカメラマンの技術が「高いものが要求される」ようになったのです。けれども、結婚式のスナップ写真撮影というのは、構造不況業種のため、会社側が人件費を削減してきて、給料の高い優秀なカメラマンが切り捨てられてきた業界です。残ったカメラマンの中には、腕のいい人が少なくなってきました。そういった、「あまりうまくないカメラマン」には、デジタルカメラで適正な露出の写真はなかなか撮りにくいのです。このため、失敗写真が多くなります。
 また、デジタルカメラは操作方法が複雑で、昔なら、カメラの基本構造がわかっていれば、どんなカメラでもすぐに慣れて撮影できたものが、今は、事前に説明書をもらって、熟読して、何度か練習をしないと使いこなせない、という状況になってきました。また、カメラの商品サイクルが短くなり、すぐに新製品が出ます。せっかく、旧製品の使用方法を覚えても、新しいカメラに切り替わると、一からやり直しです。同じメーカーであっても、機種が違うと、操作方法は大きく異なるため、慣れないカメラでは良い写真が撮りにくいです。


デジタルカメラは故障しやすい
 私も今でも時々、撮影の手伝いをしたりするため、一眼デジカメを3台ほど持っていますが、いずれも、1年経たないうちに故障しました。デジカメはフィルムカメラと比較して圧倒的に故障する率が高いです。初期不良も多く、某掲示板では、「買ってすぐに故障したので、別の新品に交換してもらった」という記述が目立ちます。デジカメ創成期は、「フィルム給送などの動作部分が少なくなるから、故障は減るはず」と言われていたりしましたが、実際は反対でした。機械製品であるとともに、電気製品でもあります、また、複雑なプログラムが組まれた電子製品でもあります。それだけ、なにかしらの故障が発生しやすくなっています。おかげで、メーカーのサービスセンターは大忙しだそうです。加えて、「フィルム代を考える必要がないため、フィルム時代の2〜3倍の枚数を撮影するようになった」ことから、カメラが痛むのが早くなりました。昔のカメラは「40年経っても使える」といったものが珍しくないですが、今のデジカメは「3年間フルに使えたら御の字。どうせ、2年もすれば新型が出るから買い換える」という考え方です。最初はコストが安くなるだろうと考えて、デジタルを導入した会社でも、カメラのライフサイクルが極端に短いため、カメラ本体に対する投資は、以前の数倍に増えている状態で、実はさほどコスト減になっていなかったりします。また、故障する確率が高いため、以前よりも「予備カメラ」の台数を増やさなくてはなりません。これもお金がかかります。


記録メディアのデータ消失が怖い
 業者が一番恐ろしいのがこの問題です。私の知り合いに聞いたところ、「ホテルの宴会場で撮影していた時、絨毯の上をずっと動き回って撮影していたため、静電気が体の中に蓄積されていたのだろう、CFカードを取り替えようとカードを取り出した際に、突然、バチっと静電気が走り、その時のショックでメディア内の画像データがすべて消えていた」というトラブルが実際にあったそうです。カメラマンがちゃんと撮影したあとでも、CFカードのデータをPCに取り込む際に、PCオペレータの体内の静電気で、画像データが消えることもあるそうです。知り合いの業者では、カードを触る前に、「静電気放電シート」に必ず触ることになっているそうです。(よくエレベーターの押しボタンの上に貼ってあるやつです)
 この他、メディア容量の大容量化にともない、メディア内での故障も発生率が高くなっているそうです。ある大手メディアメーカーの社員の話ですが、「CFカードの場合、自信を持って保証できるのは512MBまでで、それ以上の大容量のものは、無理やり詰め込んでいるので、本当はこわいんです」とのこと。しかし、今や1000万画素が当たり前の時代に、大量に撮影するプロの場合、512MBではすぐに満杯になり、頻繁にカード交換しなければなりません。カード交換の際の「静電気発生」「電気接点の汚れ発生」「ほこりが入り込む」などのリスクを考えると、本当はカード交換はあまりしたくないものです。
 今、業者の中には、「大容量のメディアは怖くて使えないし、万一クラッシュした際に損失する画像枚数が膨大だから、2Gや4Gの大容量は使わず、512MBのカードをたくさんそろえて、頻繁に交換して撮影する方針」の会社と、「カード交換の際に発生するトラブルがこわいから、大容量のカードを使用して、撮影中は一切、カードの抜き差しはしない方針」の会社とが、両方存在し、「はたしてどっちが正しいのか、?」実験をしている段階です。


埃が気になる
@フィルム撮影の場合、万一フィルムにほこりがくっついても、その1枚がだめになるだけで、次のコマに移った段階で埃は消えます。しかし、デジタルの場合、撮像板にほこりがつくと、簡単にはとれず、そして、全カットにほこりが写りこみます。オリンパスの一部のカメラでは、この埃の問題を機械的に克服しており、気にしなくていいのですが、プロはオリンパスは使いません。キャノンかニコンです。しかし、両メーカーとも、根本的に埃問題を解決した機種は出しておらず、レンズ交換ができる一眼レフは、レンズ交換ができるゆえに、埃が入る機会が多くなり、埃問題を軽視できません。画像ソフトで消すこともできますが、面倒な作業が必要になり、やはり、最初から埃がつかないのが一番です。

Aこれは、カメラ内部の埃ではなく、カメラと被写体の間にある空気中の埃の問題です。ある小学校の入学式の撮影で、1組の子供を撮影している時に、次の2組の子供が体育館内を暴れまわって、体育館の中に埃が舞っていました。この埃がストロボの光を受けて乱反射し、写真に白いボヤっとした大きな点が写ってしまいました。写真的には完全に失敗です。こういう症状が発生するのは原理的にはわかりますが、今までのフィルム撮影の時は、ほとんど発生しませんでした。それがなぜか、デジタルだとよく発生するのです。(どなたか原因を教えてください。私の知り合いのプロはみんなわかりません) 埃だけでなく、屋外での撮影では雨の水滴でも同じような症状が発生します。フィルム時代でも、雨が強く降るとストロボ光が反射しましたが、わずかな小雨ですと、大丈夫でした。それがデジタルだと、発生することがあるのです。これだと、滝の前の撮影でも発生する率が高いです。デジタルなので、すぐに液晶画面で発見し、「あれ、埃が写ってしまった。では、撮りなおそう」と再度撮影することが可能なため、致命傷にはならないのですが、今まで「2枚撮影」で済んでいたのが、4枚も5枚も撮影すると、小学校の入学式などでは子供がじっとしておらず、ちゃんとした写真が撮れません。また、先生方も「写真撮影なんか早く終わらせてよ」と思っているため、何枚も撮ると怒られます。



 結婚式の撮影は、「一生に一度の撮影に万が一でも失敗しては困る」という性格のものです。学校の卒業式入学式の撮影も同様です。こういう撮影で、デジタル化によるトラブルが何度か発生すると、結婚式場側(撮影業者の雇い主にあたる)が、「フィルム撮影の頃は、年に一度か二度くらいしかトラブルはなかったのに、今は、毎月のように起きているじゃないか! デジタルはやめて、フィルムに戻してくれ。デジタルじゃ安心できない」と、業者に要請しているところもあるようです。こういった噂は広がるのが早いため、今まで初期投資にかかわる資金面の問題などでデジタル化を待っていて、「うちもそろそろ変えようか?」と思っていた業者が、「やっぱり、フィルムのほうが安心だ。デジタル化はやめよう」と考え直すケースも発生しているそうです。
 特に、何十もの会場を抱え、1日に何百件も婚礼撮影をしているような業者の場合、「1000回に1回くらい発生する程度の、ごくごくわずかな故障ですよ。許容範囲ですよ」と言っても、「1000回に1回じゃ、うちの場合、月に1回発生するということじゃないか!」という計算になるわけで、一切の失敗が許されないプロの現場では、デジタルは非常に恐ろしいものなのです。

 デジタルに関するトラブルは技術的な側面が大きく、いずれ技術革新などで解決されるかもしれませんが、今の過渡期では以上のようなトラブルが頻発して、業界は混乱しています。フィルムの場合は、フィルム1本がだめになったとしても、最高で36枚の写真が消えるだけですが、2Gのカードなど、700枚が一度に消える場合もあり、トラブルが起きると深刻です。


 
プロカメラマンにとって、デジタルは「便利だけど非常に怖い」、「両刃の剣」です。

  しかし、カメラメーカーは事実上フィルムカメラからは撤退していますから、フィルムカメラに未来はありません。どうしたらいいのでしょうか?



トップ アイコン

直線上に配置